3つのナイトメアー
なって、恭子は、はにかむように顔を赤らめながら手を差しだしていた。
「恭子です、よろしく。あのう、父がお世話になってます」
「まあ、きちんと挨拶が出来るのね。さすがは貴ちゃんの娘!」
父は、ごく親しい人間から、貴之という名をとって貴ちゃんという愛称で呼
ばれている。可南子の艶っぽいふっくらとした愛らしい唇から出ると、子供心
にもそれはいつもと違って、なにか意味深で悩ましげなニュアンスをもってい
た。
母の後姿が、一瞬びくんと固まったように感じた。これからが、母の苦悩と
試練の始まりとなるのだが、恭子にとっては、その時の可南子の印象は、キュ
ートで魅力にとんだ悪戯っぽい妖精のようで、決して悪くはなかった。
可南子が、母と恭子の平和で幸福な生活に浸食する悪魔だったことを知った
のは、ずっと後だった。