3つのナイトメアー
のグラスを取って飲んだ。
アスファルトの上で、血まみれになって恭子は思った。自分はこれまで冬彦
の何を見てきたのだろう。途端、結婚してから二人で築いてきた幸福だった
日々が、走馬灯のように頭を駆けめぐって、涙がいくすじも頬を伝った。この
まま眠るように死ねたら楽だろう。でも、あの置き手紙だけは、何も知らない
善良な夫の目に触れさせてはならない。それが、今までこんな自分を信じてず
っと慈しんでくれた夫に対しての、最初で最後の礼儀だ。
恭子は、死ぬ間際の渾身の力をふりしぼって、地面についた手の力を込め
た。その目は、子供の頃、父の故郷の祠で悪童に追いかけられた時に遭遇し
た、古い雑貨店を必死に探していた。自分は、あの時老人に誓ったことも忘れ
て、ずっと傲慢に人を見下してきた。あの時心を入れ換えていたら、華代も狂
うほど