3つのナイトメアー


自分を憎むこともなかったはずだ。あのすすけた顔色の老人に、もう一度だけ


会って頼みたい。


「許されるなら、今日までの怠惰で傍若無人だった自分の人生を、最初からや


り直したい。本当に人を愛せて、人の心の痛みがわかる人間になります。夫を


愛し信じて迷いません。だから、もう一度だけチャンスを下さい。今度こそ必


ず守りますから」


 恭子の切なる願いもむなしく、彼女の見開かれた目は、血にまみれたアスフ


ァルトだけを映していた。やがて、その目も力を失い徐々に閉じられていっ


た。恭子の手は、一瞬虚空をまい、魂は永遠の闇に息絶えた。最後に、ピュア


な自分と向き合うことができて嬉しかったのか、安らかな死に顔だった。







 華代は、やおらむっくりと起き上がった。数十メートル先で、恭子が車に轢


かれて倒れていた。
< 165 / 208 >

この作品をシェア

pagetop