3つのナイトメアー
こだましただけで、救いの神には届かない。老人は、これから起きようとす
る惨劇を避けるため、全身の力を振り絞ってもがくが、椅子に縄で頑丈にく
くりつけられた両腕と両足は、完全に自由を奪われてピクリとも動かない。
つい数時間前までは、自分達夫婦は、あんなに幸せに笑いあっていたの
に。最愛の妻と支え合いながら、残り少ない余生の一日一日を大切に生きて
いく。そんなささやかな幸せが、こんな理不尽な形で無謀にも奪われようと
している。老人は、目の前の男を強く憎んだ。それ以上に、妻一人助けられ
ない非力な自分を恨んだ。
やがて、男は、火の燃えさかる新聞紙を、まるで玩具のようにポイと投げ
捨てた。炎が、妻の足元までパッと燃え広がる。妻の老いて痩せた体が火柱
となって、絶叫する間もなく、見る見るうちに赤黒い物体へと化していく。
「あなた、助けて」