3つのナイトメアー


 老人は、焼けさらばえた骸に、再び魂を宿らせ、店の中で、罪深き人間が己


の欲望にまみれた願いごとにくるのを、ひたすらかげろうのように待ち続け


た。


 そして、とうとう、浅見麻衣からはエゴイズム、真壁恭子からはジェラシ


ー、斎藤篤からはリベンジの情念を、それぞれ罠にかけて搾取した。老人は、


全霊をこめて、それらを神の前に差し出した。三つの情念は、瞬時に絡まり、


もうもうと白い煙を立て始めた。


「おお!」


 煙が次第に妻の姿を型どっていく様子を、老人は固唾をのんで見守った。


 頭髪が焼け落ち、無残に剥き出しになった赤黒い頭皮の下の、真っ黒に焦げ


た顔を覆い隠しながら、妻は小さくつぶやいた。


「こんな姿になってしまったのを、あなたに見られるのは耐えられない。お願


いですから、このまま静かに眠らせて下さいな。もう、終わりにしましょう」


 
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