3つのナイトメアー


 空洞になった目から涙を溢れさせ、膨れあがった唇で、妻は老人に必死に訴


えかけていた。妻の悲痛な願いは、老人の頑なな心を強くゆさぶった。


「ああ、そうしよう。今までずっと一人っきりにさせてすまなかったな」


 老人は、何十年も忘れていた柔和な笑みを取り戻して、泣きながらうなずい


た。そして、妻の小さくいたいけな体を、愛しそうに両腕にすっぽりと包みこ


んだ。


 一体となった老夫婦の肉体は、次第に霞みのようにあたりに溶けてゆき、二


人の魂に永遠の眠りが訪れた。
             
                完
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