3つのナイトメアー
婚約者ともうすぐ結婚予定だった美咲先生にとって、あまりにも残酷すぎ
る出来事だった。クラスメートから孤立がちだった律ちゃんは、美咲先生に
だけは心を打ち解け姉のように慕っていたから、よほどショックだったのだ
ろう。その日から、律ちゃんは学校に来なくなってしまった。
世話好きのあたしは、他の先生方からの薦めもあって、学校の代表として
律ちゃんの家を訪問する役目を引き受けた。律ちゃんの自宅のあるN区は、
大阪一の人間の垢にまみれた埃っぽいドヤ街だ。昼間から酒に酔い、赤ら顔
をしてふらふらと歩く労務者達の、好奇心剥き出しの視線に晒されながら、
あたしはようやく律ちゃんの家にたどり着いた。呼び鈴もないその古い市営
住宅の前で、あたしは律ちゃんの名前を呼んだ。一人で留守番していた律ち
ゃんは、戸を開けてあたしと目を合わすなり、まるでなにかにとりつかれた
かのように、蒼黒い顔を引きつらせてがたがたと