3つのナイトメアー
 

 婚約者ともうすぐ結婚予定だった美咲先生にとって、あまりにも残酷すぎ


る出来事だった。クラスメートから孤立がちだった律ちゃんは、美咲先生に


だけは心を打ち解け姉のように慕っていたから、よほどショックだったのだ


ろう。その日から、律ちゃんは学校に来なくなってしまった。


 世話好きのあたしは、他の先生方からの薦めもあって、学校の代表として


律ちゃんの家を訪問する役目を引き受けた。律ちゃんの自宅のあるN区は、


大阪一の人間の垢にまみれた埃っぽいドヤ街だ。昼間から酒に酔い、赤ら顔


をしてふらふらと歩く労務者達の、好奇心剥き出しの視線に晒されながら、


あたしはようやく律ちゃんの家にたどり着いた。呼び鈴もないその古い市営


住宅の前で、あたしは律ちゃんの名前を呼んだ。一人で留守番していた律ち


ゃんは、戸を開けてあたしと目を合わすなり、まるでなにかにとりつかれた


かのように、蒼黒い顔を引きつらせてがたがたと
< 6 / 208 >

この作品をシェア

pagetop