3つのナイトメアー


ようだわ。これが今のあたしだと認めるには、すごく勇気がいった。


 あたしは、無言のまま自分に一番ふさわしくない、シャンネルの服やバッグ


を置いて、店を飛び出した。途端、今まであえて記憶の外に追いやってた、長


い年月の経過がはっきりと蘇ってきたわ。あたしは、あの日高裁で、求刑二〇


年の判決を言い渡されて、実際十八年もの間刑務所の中にいたんだ。十八年も


の長い歳月が、残酷にあたしから美と若さを奪った。優美な白鳥から、毛をむ


しり取られた惨めで貧相なアヒルに変貌してしまったんですもの。これじゃ、


パパから愛想をつかされても当然だわ。




 あたしは、デパートを出て、夏の黄昏の中、人ごみにまぎれて一人当てもな


くさまよった。ふと、母親を殺したいと願った時、毒薬をくれた老人のことを


思い出して、あの古びた店を探してみた。もう一度会えたなら、今度こそ裕福


で恵まれた家の子として生まれ変わり
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