僕と天使が見つけたもの。
気付けば、僕はあの場所にいた。
でもこれは夢だ。
わかるから、わかってしまうから。
町の中でも人と車の多い国道の交差点。それどころか、世界中の人間は僕達だけになってしまったような、そんな世界。チカチカと点滅する信号機のライトはどこかくすんでいるように見える。
「星夜……」
隣には、和沙がいる。中学校の制服だった、紺色のセーラー服を着て僕を見て、優しく微笑んでる。
蒸し暑い。
もうすぐ、世界が朱くなる時間が来る。
僕には止められないあの瞬間が。信号が青になって、僕達は歩き始めた。
つもりだった。
横断歩道の真ん中で和沙がいないことに気付く。振り返ると、何かを探しているのか、鞄の中を見ていた。戻ろうかと思ったけど、点滅を始めた信号機を見て、僕は向こう側へ走った。
その瞬間、雷が直撃したような痛みと衝撃が走る。夏の湿り気が嘘のように、喉がカラカラして、声が出なかった。
ぞわぞわと背中を這う悪寒に、冷たい汗が一粒、頬を滑り落ちてアスファルトに黒い染みをつくった。
向こう側を見る。
和沙が走りだした。
僕の名前を呼びながら。
だめ、
ダメ、
駄目。
走っちゃ、だめなんだ!
「 !!」
「 !」
信号が、朱に染まる。
僕の声にならない叫びはクラクションにかき消されて―――――
恐くて、見たくなくて目を堅く閉じた。
世界中がまた、真っ赤になったのがわかった。
「和沙……」
涙と一緒にやっと出てきた言葉だった。
――――――その時、冷たい何かが頬を撫でた。身体の不安と火照りを拭ってくれるような心地いい冷たさ。
海のように広くて、蒼くて、冷たくて気持ちいい、何か僕を包み込んだ気がした。