シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
――そんな時。
「紫茉、馬鹿止めろッッ!! 下手に動けばお前だってやばいッッ!!!」
「うるさいッ!!! 翠だって感じているだろう。"何か"の気配があること!! これ以上犠牲を増やしたくないッッ!!」
大声で怒鳴り合う男女の姿があった。
「ほっとけよ、逃げれば勝ちだッッ!!! 俺、紫茉に何かあったら、朱貴(タマキ)に顔向け出来ないんだよッ!!!」
どうやら、倒れる女を介抱しようとする、腰まである長い黒髪を1つに結った少女を、背の低い少年が止めようとしているらしかった。
混乱の渋谷で、2人のやりとりは異質でいやに目立っていて。
それよりこの少年の声。
電話してきた声に酷似していないだろうか。
「やはりお前が付いてきたのは朱貴の差し金か!! ああそんなことよりも、早く星見鏡を出せ!!! お前のちっぽけな"事情"なんて知らん!! 非常事態の今使わなくていつ使う気だ!!? 偉大なる兄上は、こんな事態を見て見ぬ振りをして逃げろとお前に教えて、アレをお前に託したとでもいうのか!!?」
「…ああ、くそっ!!! 今回だけだぞ!!?」
そして少年が、懐から片手に乗るくらいの薄い何かを取り出して少女に渡すと、少女はそれを片手に乗せた。
そして、角度を調整するように手を揺らすと、それを覗き込む。
「よし、映った!!!
――蝶!!?
…翠、あっちだ!!!」
「紫茉、だから危ないってッッ!!」
2人が、1人の…怯えて動けなくなっている少女の元に駆けた時、
「蝶が、あっちに移動してる…」
震える芹霞さんの指も、同じ少女を指し示していて。
つまり――
あの少女にも、芹霞さん同様に"蝶"が見えていると?