シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「……どうだ、櫂。小娘はこう提案しているが。小娘を俺に渡すとお前が了承するのなら、俺は小娘の取引の乗り、お前をここから出してやるぞ? どうだ? 逃げたいか?」
きっと…そう言わせるのが、性悪櫂の"楽しいこと"なんだろう。
櫂が嫌がっているのを知っていて、あえてそれを認識させる。
真性のS。
ああ、だけど…あたしだって同じようなものか。
櫂の気持ちを無視して、自分勝手に強硬しようとしているんだものね。
櫂はじっとあたしを見た。
あたしもじっと櫂を見た。
――芹霞ちゃあああん!!!
横から玲くんの視線を感じた。
あたしは玲くんをも見つめた。
「判った…。
芹霞…後で速攻迎えに行く。
必ず行くから!!!」
櫂の決断に…玲くんも項垂れるように頷いた。
「久涅。俺は…その取引を了承する。だけど…覚えておけ。預けただけだ。3時間後、俺は奪い返す。どんな手を使っても!!!」
凛とした声音。
「ほほう? その頃はお前は勝負に負けて絶望に喘いでいる真っ盛りだぞ? この勝負…負ければ、この女は完全に俺のものとなるのを忘れていないか」
「……。二度言わせるな。どんな状況においても、奪い返すまでだ!!!」
櫂と…久涅の対峙は、まるで鏡の内外のようにそっくりで。
櫂が憎悪で睨めば、同じぐらいの憎悪で跳ね返す。
久涅は…不思議と、いつものような余裕めいた顔つきはしていなかった。
その心の動きは判らないなりにも、少なくとも両者何かを決意をしていたのは間違いないようで。
「両者に取引が成立するのなら、周涅ちゃんは手出ししないよ~。勝手に出て行っていいからね~」
周涅は興味を無くしたように、手の平を…追い払うようにして振った。
どうやら、久涅と行動を共にするつもりらしい。
一先ず、櫂の…皇城からの攻撃も、収まったらしいと、ほっと胸を撫で下ろして安堵していたあたし。
そんな中、強く反論したのは――
「駄目です、芹霞さんを久涅に渡しては!!!
…櫂様、玲様!!!
止めて下さいッッ!!!」
桜ちゃんだった。