シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「櫂…大丈夫か?」
皇城家を出る間際、玲が俺の顔を覗き込んだ。
周涅の宣言通り、呆気なく思う程…静かな屋敷を抜け出ることが出来たんだ。
「大丈夫だ。そういうお前の顔も酷いぞ?」
憔悴しきった顔。
玲だって、芹霞を力ずくでも連れたかったろう。
だけど――
皇城での領域にいる限り、俺達には道はないと思えばこそ。
それくらい、あの場における立場は、最悪だったんだ。
「酷いとは失礼だな、櫂。どうせ僕達は同じ血を引いているんだから、1人が酷けりゃもう1人も酷いだろうさ」
そう軽口を叩く玲の左肩には、桜が居る。
悔しそうに…後ろ髪ひかれるかのように、屋敷を見つめている。
「小猿くんもいることだし、3時間だ。事態は案外…悪くならないかも」
遠坂が笑うけれど…良くもならないことは確か。
辺りはもう暗くなり、寒さが身に染みてくる。
月は厚い雲に覆われ、どの位置にあるのか見当も付かない。
あと3時間も経てば、景色は更に凍り付いてくるだろう。
俺は…臆することなく、横須賀に向かわねばならない。
俺の灯火を残してしまった今、俺は…温もりなしで行かねばならない。
いや…俺の手首には、熱い真紅色がある。
滾るような想いをバネに、今…進んで行かねばならない。