シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
その時、
「なあ…七瀬の兄貴、絶対何か企んでいるように思わないか? 無論七瀬の兄貴だけじゃなく、紫堂の兄貴も。たかが女1人手に入れる為に、わざわざあの場に出向いて相手を逃がすか、普通?」
遠坂の疑問に、玲が頷いた。
「うん、それは思っていた。見逃すなんて…久涅らしくないと。もし逃がして逆転されたらどうするんだ?」
俺は嘲るように嗤った。
「逆転しない…絶対的自信、勝算があるんだろう。多分…皇城の家の外、神奈川か…あるいは、ゴールの横須賀か。そして居ないことも気になる」
わざと対象をぼかした俺に、玲は溜息をついた。
「緋狭さん、か。そうだね、桜華でも引いたまま…。何か…在るんだろうね、僕達が逃れられないような"罠"が」
「ええ!!? もういいよ、もういらないよ!!! もっと出し惜しみしてくれよ~」
俺達の気持ちを代弁した遠坂が、夜空に吼えた。
「…しっ。静かに、由香ちゃん」
玲が唇に人差し指をたてて、周囲を伺う。
俺と玲は、同時に同じ方を見た。
気配。
「な、何だよ…。師匠達が静かだと、寒くなって来るじゃないか」
両手で自分を抱きしめるようにして震えた遠坂に、玲は笑った。
「…丁度身体が解れて、温かくなりそうだよ。とりあえずは…ちゃんとついてくるんだよ」
そして俺を見て、鳶色の瞳を剣呑に光らせた。
「――待ち兼ねたように、居るな。寒い中、ご苦労さんのことで。足止め、か?」
俺が周囲に目をやりながら呟くと、
「あくまで"保証"は…家の中だけらしいな。家の外は…周涅の管轄外、とでもいいたいのかな。凄く気が入り乱れてるね。多種多勢か」
そう言った玲の右手が青い光に包まれて。
俺も手に緑の光を纏う。
「玲様…桜を下ろして下さい。桜も闘います!!!」
「桜。お前はじっとしていて。お前をひっぱり出すまでの相手じゃない。僕と櫂で凌げるだけの相手だ」
そして――
「さあ、此処から突っ走るぞ」
乱戦が始まった。