シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
暗闇の中――
波動状に…玲の青い光が横に拡がれば、俺の緑の光が上下に風を巻き上げる。
聖なる十字架の如き閃光は…夜空に煌めき、何処か儚げで幻想的にも見えた。
しかし実際は、夥しい敵を焦げ付かせ、切り裂き…その残骸を山に積もらせているだけの惨たらしいものであり、俺の鬱屈とした想いを発散するだけにいい…そんな爽快感を漲(みなぎ)らせるものだった。
しかし如何せん…夜空が暗すぎて、明確な光景を認識できずに…些(いささ)か消化不良を起こしたのは事実。
無効化されることのない紫堂の力は、相手が如何に体術に自信がある者であっても、攻撃の前に攻撃出来ものである限り、俺達に触ることが出来ず。
いや、近寄ることさえ俺達が許さない。
芹霞を連れることなく…置いてきてしまった極度の痛恨さによる苛立ちが、力の放出の度合いに比例している。
足止めにもならない、この大量の敵の数を思えば――周涅がすんなりと皇城家から出した意味も判った気がした。
最初から、予定通りだったのだろう。
この寒空の元、待機していたこれらの人間は…恐らく俺達の力と時間を消費させるために宛がわれた者達に違いない。
見慣れた服を着た制裁者(アリス)。
見慣れた顔つきの警護団。
そして符呪を取り出して攻撃しようとしている男を見れば…皇城の者なのだろうか。
普通に黒服の男達も居る。
まるで"混沌(カオス)"を相手にして、それでも俺達は足を止めることなく…力ずくで、人波に埋もれた道を切り拓いていく。
強さならこちらが上だ。
早さならこちらが上だ。
それでも…芹霞を連れられない実力不足が身に染みいって。
更に風の力を大きく放出させた。
「紫堂、紫堂!!! 君が凄いのは判ったけれど…肝心な場所でガスギレになるなよ!!? 此処は決戦の場じゃないからな!!? ちゃんと調整しろよ!!? 万が一のことがあれば、神崎を手元に戻せなくなるかもしれないことをちゃんと考えろよ!!?」
遠坂も…芹霞を残したのを辛がっている。
誰もがその選択に、心から納得したわけではない。
奪い返す為に、3時間…残したんだ。