シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
その風邪薬は俺も知っている。
忌々しいZodiacが宣伝する、市販の風邪薬のはず。
「まさか風邪でも引いていた訳じゃあるまい? それをどうした?」
「はい、櫂様。紫茉さんの治療に…回復に、必要なものだと…朱貴から貰いました。解熱効果と鎮痛効果があるというのを思い出しまして」
怪我による発熱も骨折も、薬で治まっただと?
たかが風邪薬で?
「ねえそれ…姉御の、地下室でも転がっていたよね」
遠坂が言った。
思い返せば…桜が倒れていた時、床にこんなラベルの小瓶が転がっていたような気がする。
「あの時…桜、この薬を飲んだの?」
鳶色の瞳が細められると、桜は困惑した顔つきをした。
「緋狭様に…何を飲ませられたのかは判りません」
「緋狭さんが…飲ませた?」
俺は訝り、桜を見つめた。
「あの時、葉山…具合悪そうにしてたけれど…やっぱり風邪だったの?」
それに対して、桜は微妙な反応を寄越した。
桜?
「ねえ、それさ…七瀬の兄貴が見た時、妙なこと言ってたよね?」
――……へえ? 販売中止にしたのによく持っているね? こんな時にそれ出すなんて…判っているんだ、その効果…。