シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
その風邪薬は俺も知っている。

忌々しいZodiacが宣伝する、市販の風邪薬のはず。


「まさか風邪でも引いていた訳じゃあるまい? それをどうした?」


「はい、櫂様。紫茉さんの治療に…回復に、必要なものだと…朱貴から貰いました。解熱効果と鎮痛効果があるというのを思い出しまして」


怪我による発熱も骨折も、薬で治まっただと?


たかが風邪薬で?


「ねえそれ…姉御の、地下室でも転がっていたよね」


遠坂が言った。


思い返せば…桜が倒れていた時、床にこんなラベルの小瓶が転がっていたような気がする。


「あの時…桜、この薬を飲んだの?」


鳶色の瞳が細められると、桜は困惑した顔つきをした。


「緋狭様に…何を飲ませられたのかは判りません」


「緋狭さんが…飲ませた?」


俺は訝り、桜を見つめた。


「あの時、葉山…具合悪そうにしてたけれど…やっぱり風邪だったの?」


それに対して、桜は微妙な反応を寄越した。


桜?


「ねえ、それさ…七瀬の兄貴が見た時、妙なこと言ってたよね?」


――……へえ? 販売中止にしたのによく持っているね? こんな時にそれ出すなんて…判っているんだ、その効果…。
< 1,025 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop