シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

そんな僕より、納得していなかったのは…櫂の方だった。


唇を重ねあう2人に、僕は…思った以上に心が冷え切った。


取り乱しもせず、ぼんやりと眺めていたのは…頭が受容していなかったから。


僕であったら。

僕が相手だったら。


今考えることではない欲望だけが頭にぐるぐる回って。


手首に結ばれた布。

まるでそれが、愛の証のように思えた。


泣きながら笑う芹霞の指先が、微細に震撼していて。


そこまでして櫂を守ろうとする芹霞の心が、僕には痛すぎて。


櫂が櫂であるならば、きっと芹霞は身を犠牲にするのだろう。

櫂は肩書きに拘り、完璧な王子像に拘るけれど、芹霞はそんなものを気にしちゃいない。


櫂であればいいだけだ。


だけど、芹霞は櫂のものではない。

芹霞は櫂を選んだわけではない。


好きだと愛していると告げたわけではない。


だけどもし、櫂の肩書きが元通りになり…それで芹霞が完璧に手に入るのだとするならば、ああ…僕も欲しいと思うのは、邪ま過ぎる…贅沢な望みなんだろうか。


かつて僕が望んだ肩書きは、母の虐待から逃れるためで。

自己防衛のものだった。


だけどもし許されるのであれば、僕は自分の望みの為に、肩書きが欲しいと…思ったんだ。


かつての次期当主が3人いる部屋の中、次期当主という者が芹霞を奪う力があるというならば、僕も…芹霞を奪いたいと思ってしまった。


芹霞の心、関係なく。



――約束、して欲しい。


ああ――

僕が次期当主だったら。


ありえないもしも話が頭から離れなくて。


自制できない程、僕はもしもの夢話に…縋っていたんだ。


< 1,030 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop