シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
そんな僕より、納得していなかったのは…櫂の方だった。
唇を重ねあう2人に、僕は…思った以上に心が冷え切った。
取り乱しもせず、ぼんやりと眺めていたのは…頭が受容していなかったから。
僕であったら。
僕が相手だったら。
今考えることではない欲望だけが頭にぐるぐる回って。
手首に結ばれた布。
まるでそれが、愛の証のように思えた。
泣きながら笑う芹霞の指先が、微細に震撼していて。
そこまでして櫂を守ろうとする芹霞の心が、僕には痛すぎて。
櫂が櫂であるならば、きっと芹霞は身を犠牲にするのだろう。
櫂は肩書きに拘り、完璧な王子像に拘るけれど、芹霞はそんなものを気にしちゃいない。
櫂であればいいだけだ。
だけど、芹霞は櫂のものではない。
芹霞は櫂を選んだわけではない。
好きだと愛していると告げたわけではない。
だけどもし、櫂の肩書きが元通りになり…それで芹霞が完璧に手に入るのだとするならば、ああ…僕も欲しいと思うのは、邪ま過ぎる…贅沢な望みなんだろうか。
かつて僕が望んだ肩書きは、母の虐待から逃れるためで。
自己防衛のものだった。
だけどもし許されるのであれば、僕は自分の望みの為に、肩書きが欲しいと…思ったんだ。
かつての次期当主が3人いる部屋の中、次期当主という者が芹霞を奪う力があるというならば、僕も…芹霞を奪いたいと思ってしまった。
芹霞の心、関係なく。
――約束、して欲しい。
ああ――
僕が次期当主だったら。
ありえないもしも話が頭から離れなくて。
自制できない程、僕はもしもの夢話に…縋っていたんだ。