シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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鎌倉を抜け逗子に入れば山深くなり…方向を間違えれば、道が途絶える。
迂回するような遠回りの道路を通るより、横須賀線の線路の上を走ればその延長上にある横須賀港を見失わずにすむから、僕達は線路伝いを行くことにした。
想像通り、所々線路は不自然に破壊され…列車が行き交う気配もなく、それに対して此処の住人にはさしたる混乱はないようだ。
完全に闇に包まれ…ひっそり静まり返った暗闇の中、僕達に向けられた視線だけはやけに多く、そして強く。
長時間の力の放出を避け、体術に切り換えた僕達に、飽きもせずに敵は襲いかかってくる。
いつ見ても…櫂の体術は見事だ。
決して筋力に頼ることなく、自らの支軸の移動を利用して…無駄な力を極力削ぎ、僅かな力で多勢の相手の重心を崩して倒す。
それでいて、力を出せば…無駄ない動きで、きちんとトドメはさす。
しなやかな肉体と、バネ。
別に煌や桜の様に、毎日鍛錬しているわけではないのに、実戦慣れしたかのような鍛えられた逞しさを見せる肉体。
紫堂の次期当主としての優れた頭脳と、運動神経。
あの紅皇たる緋狭さんが、教え子たる僕を排してまでも…櫂を次期当主につけたいと思ったことは、決して間違いじゃないと思う。
僕に…何度も何度も劣等感を抱かせ、同時に何処までも憧れさせる…僕の自慢の可愛い従弟は、いつでも僕を見捨てず守ってくれた。
そして――
苦しかった僕の想いを…認めてくれた。
それだけで満足すればよかったのに…僕は、太陽のように燦々と輝く櫂を見る度、誇らしいのと同時に、それが芹霞への愛の象徴の気がして、その堂々とした愛の示し方に…心が苦しくて仕方が無かった。
その意味に気づかないのは芹霞だけ。
櫂は僕の心の中の…何を見たのだろう。
芹霞の為に、自分を変えた櫂。
芹霞を守り、手に入れる為に…櫂はここまで強くなった。
そして一途な櫂に、8年前…僕は負け、以来…櫂は敗者たる僕を守り続けてくれたんだ。
そんな櫂を、裏切って堂々と横恋慕した僕は、何と恩知らずな浅ましい存在なんだろう。