シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

しかし本当に殴ったのは久涅で。


不覚にも…あたしは拍手をしてしまった。


まあ、周涅には大したダメージではなかったんだけれど。


ああ…


あたしは一体何をしているんだろう。

何をしたいんだろう…。


にっくき敵に、賞賛の拍手をするなんて。


不甲斐なさに…思い切り脱力した。


そんな時――


「……ワンコ…」


か細い声が聞こえて振り返れば、小猿くんがぐったりとしている煌の身体を腕に抱いていて。


「ごめんな、ワンコ……」


犬猿の仲でも、かなり懐いていたらしい小猿。


煌は本当に誰からも好かれる奴だから、とうとう世の常識までも超えてしまったようだ。


小猿くん言葉が涙交じりだったのは…実家において、更に次男という高い身分でいながら、煌をこんな目にあわせたという…己の力のなさを悔いているのだろう。


煌を守れずに悔いているのはあたしも同じだ。


何も小猿くんだけが自分を責めることはない。


小猿くんなりに、きっと頑張ってくれていたはずだから。


あたしがそちらに行こうとすると、久涅が手を引っ張った。


「何!!!?」


眉間に思い切り皺を寄せて、激しく久涅を睨み付け…その触られた腕を全力で振り払い落とした。


櫂と同じ顔をした、大嫌いな男。


「気安く触らないで!!!」


「お前は…何でもすると言った」


無感情の切れ長の目。


櫂のような優しさなど微塵もないのに、何処か櫂にも通じる…憂いが含んでいるように思えるのは、気のせいか。

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