シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「芹霞ちゃん。そんなに…櫂くんの負けっぷりを見届けたいの?」


七瀬の兄貴は少し笑ったようだ。


「ふうん? 打ちひしがれる櫂くんの姿を見たいなんて、芹霞ちゃん…かなりの"S"だね?」


お前の方が、芹霞より遙かに"S"だろうよ。


やられた怪我を思い出せば、怒りが湧いて仕方がない。


だけど…あれだけ派手にやられて、こんな程度で済むっていうのが不思議で。


あの世界で感じた腕の痛みは、引き続き同じ箇所が痛むけれど…折れている足に痛みもねえし、顔が腫れた感覚もねえ。


確かに俺、耐久ある身体の作りはしているけれど…回復しすぎじゃねえか?


随分と片寄った回復だけれど。


「紫茉ちゃんも、折角…"エディター"安心させたのにね」


この男も…その条件まで知っているのか。


「どう転んでも、運命は変えられない。諦めろ…小娘」


この声。


この言い方は…


久涅?


久涅と七瀬の兄貴は…繋がっていたのか?



――王子様…。


俺は"エディター"を思い出す。


七瀬が作った玲の人形に、小っ恥ずかしい俺の恋心を詰めれば、アホの子玲もそれなりに…動き出した。


だけど馬鹿の子の俺がモデルなら、やはり…恋心以外はアホに馬鹿がプラスされて、何ともおかしな玲だったけれど。


不思議にも――

あの女が求めているのは玲の愛情だけだったらしく、盲目的に溺愛の情を見せ、それなりの行動を見せれば、あの女は猫のようにおとなしくなった。


――サンドリオン…ああ、これで私も楽園に行ける。


サンドリオン?

あの見えねえ蝶か?


だけどそう解釈するには、"楽園"という言葉が異質で。


――ああ、愛しい王子様。迎えに来てくれてありがとう。


アホと馬鹿の子玲は微笑んであの女に愛を囁き続ける。


だけど…基軸が俺だから、すぐ手を出そうとしていて。


俺だから仕方ねえんだろうけれど…見ている本人としては何とも複雑。
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