シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「その方がいいぞ七瀬。お前…まだ完璧に回復してねえんだろ?休んでろ」
元気ぶってはいるけれど…強靱な意志の力で荒い呼吸を抑えつけているだけだ。
もう…あそこまで助けてくれれば、十分だ。
感謝しきれねえ。
妹は…こんなにいい奴なのにな、兄貴は最悪だ。
櫂の兄貴も極悪だし。
「翠くんはどうする?」
周涅が、顔をにやつかせながら俺に聞く。
「ワンちゃんには…必要だよね?」
俺は…ゆっくりと目を細める。
"必要"
それは久涅に対する対抗策ではない。
俺自身に対する…言葉で。
だとすれば…この男には判られている。
俺の体内を。
ああ――何だよ。
何処から何処まで仕組まれていたんだよ。
俺の行く末が…例え滅びになろうとも、それは櫂を守りきってからだ。
俺は櫂を裏切らねえ。
櫂の元から離れねえ。
「小猿。すまないが…来て欲しい」
そう。
俺が櫂達を守り抜くためには、"そんなこと"にふらついてはいけないから。
「判った」
小猿は、喜んで頷いた。
その無邪気な顔を見ていると…心が痛む。
何が飛び出すか判らない環境に、皇城の次男を引っ張り出すのは、正直気が重い。
「…久涅ちゃんは、後で周涅ちゃんが横須賀に連れて行ってあげるからね。じゃあ…また、無事に会えるといいねえ!!! ははははは~」
胡散臭い笑いが広間に響いて。
何処までも不穏な空気が流れた。
罠、かもしれねえ。
だけど少しでも櫂の元に駆けつけたい。
それはきっと芹霞も一緒で。
俺は…芹霞の手に込めた力を更に強めた。
俺は、何があっても櫂を裏切らねえ。
俺を信じろ。
そう…力を込めたんだ。