シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
――――――――――――――――――――――――――――……
「ぎりぎりという処だな」
ハンドルを右に切りながら、朱貴は呟いた。
俺は…俺の裾を掴んで離さない芹霞の手ごと…ずっと握っていた。
後部座席から眺める景色は…既に真っ暗で。
疎らなイルミネーションに象られる輪郭が、よく判らない。
俺達が神奈川の…皇城本家に入った時は、まだ燦々とした太陽が上がっていたのに。
妙な場所に居た時間の流れが如何に早すぎたのか、実感してしまう。
ただ幸いにも…深まる闇は、櫂の得意分野のもので。
常闇であればあるほど、あいつが強く守護されている気がして、少しだけ安心する。
桜…櫂を守れているだろうか。
玲は…横須賀に櫂を導いているだろうか。
実際、あいつらに比べれば、俺の力など微々たるモノで役に立たないかもしれない。
だけど、守りたいという思いは負けてはいない。
櫂は…潰されてはいけねえ男だ。
櫂を守る為に俺達がいる。
櫂に惚れ込んで、櫂を崇拝しているんだ。
俺達が櫂を裏切ることはありえねえ。
――約束、して欲しい。
窓から流れるイルミネーションの数が嫌に少なくなってきた気がする。
ああ――
目に映るもの全てが、作為的に思えてしまって困る。
「あと30分切った。もう少しで…長浦港だ。しかし…瘴気が凄いな」
朱貴の位置づけは…何なのだろう。
事情を知って…何故俺達側に居てくれているのだろう。
七瀬が居るからか?
だけど――
彼自身…煩悶しながらでも…それでも俺達を見捨てないんだ。
だから――
これは、彼の意志だと信じたい俺がいる。
朱貴は…敵側ではないと。
何だろうな、そう思ってしまうのは。