シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「煌……」


思わずその名を呟いて…言葉を失って立ち竦む私に、



「桜――」


褐色の瞳が…ゆっくりと私に向いた。


きらりと光った気がしたのは…その瞳が濡れていたせいなのか。


「違うよな? 


俺…8年前に、芹霞の親殺してねえよな?」



当の本人から語られる事実。


私は…是とも否とも、何も反応出来なかった。


頭の中では"どうしよう"ばかりが思い浮かび、冷静な対処が出来無くて…それが所謂"混乱"だというものに類していると、その時の私は気づくことが出来なくて。


「違う、違うの、煌…違うの!!!」


否定出来るだけ、まだ芹霞さんの方が落ち着いていたのかも知れない。


だが――

その動揺ぶりに…疑念を抱かない馬鹿蜜柑ではなく。


一度――

煌は凱の言葉に乱されている。


失われた記憶の中に、緋狭様の仇となるに至るものが隠され、尚且つそれは想像以上の辛辣なものではないかと疑っていたんだ。


何より緋狭様を尊敬し、深く深く芹霞さんを愛した煌にとって、彼女達の肉親を殺したという事実は…耐え難きものであり。


だからこそ私達は、誰一人としてそれを口にしなかったんだ。


目の前で親を煌に殺されたという…緋狭様や芹霞さん、そしてそれを間近で見ていた櫂様でさえ。


私達は全員、言う必要がないと判断した。


煌が煌であるためには、それはむしろ邪魔なものだったんだ。


それを――…
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