シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「お前が仕出かしたことは8年前だけじゃない。
どうだ、体内の調子は?」
何を――?
「蠢き疼いて吐き気がして…また、裏切りたくなったか?
『漆黒の鬼雷』の結界の糸を引き千切り、主達に危険を招いた…『暁の狂犬』。血に染まる寸前のお前の狂いは…氷皇と朱貴の結界破壊に一役買ってくれたものな…」
切れていた私の裂岩糸。
ぼんやりとしていた馬鹿蜜柑。
吐いて苦悶していた馬鹿蜜柑の…自意識は何処からあったのか。
「皆感謝しているぞ? 朱貴の厄介な符呪まで破き、退路を絶ってくれたのは…。まあ…朱貴自身乗り込んでくるとは思わなかったが」
「煌……」
芹霞さんが泣きそうな顔をして、呆然と立ち竦む煌を見上げていた。
破られた符呪も…"エディター"の傀儡を内に招いたのも…煌だったのか。
桜華に入った時、煌は芹霞さんと保健室に一緒にいたからと除外したが…気を失っていた芹霞さんが、ずっと煌と一緒に居たという確証は何もないんだ。
そう考えれば…要所要所に煌は居て、確かにその動きに怪しい処はあったんだ。
櫂様の上着にあった符呪とて…同じ室内に居た煌が抜き取る環境と時間ぐらい、あったんだ。
そして。それ以降のドタバタ劇が…今の時間差し迫る窮地へと繋がっているのなら、確かに煌の仕出かしたことは…許されるものではない。
例え――
意識なきこととはいえ…。
例え――
櫂様や玲様を助ける為に身体を張ったとはいえ…。
「どうだ、無意識で動かされる気分は。その不可抗力的な事象が、"運命"というもの。抗えない…現実という劇での、出演者が辿る結末だ。
お前は――もう、こちら側の手の中だ。
大いなる謀(はかりごと)の一部と化している」
煌は…操られていたと…。
黄幡会の塔で1人捕まっていた煌は…そこで何か細工をされていたのだろうか。
私は…然程の驚きはなかった。
ある程度…心の何処かで判っていたのかもしれない。
それでも私は――
煌を責める気にはなれなかった。