シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
僕はエレベータを"コード変換"によって猛速度で最上階に呼び出し、地下に降りる。
目的の車は、鍵のキーホルダーのエンブレムから想像はついていたけれど、探さずしても見当は付いた。
1つだけ――
やたらと目立つ青い外車がある。
この車種に…青色の車体があるのかは判らないけれど、車好きらしいあの男ならば、金に物を言わせて色くらい塗り替えさせるだろうし、車体を大きくしたりエンジンを最高性能にすることも可能かも知れない。
あの男は、"伝統"を重んじる正統派のカーマニアから例え邪道と言われようと、嘘臭い笑いを飛ばしながら、世界に1台しかないオリジナルを手に入れて喜ぶタイプだ。
要はブランド力と自分を誇示できる"プラスα"があればいい話で。
「しかし…あの男にこのイギリスの高級車は、上品すぎやしないか? もっと派手なスポーツカーでもいい気がするけれど。まあ…そんなこと、僕が気にしても仕方がないけどね」
『007』で有名な、アストン・マーティンのエンブレム。
『Rapide(ラピード)』モデル故に4ドアであれば、確か4人乗りのはずだけれど…どうみても5人乗りだ。
これ…改造加えない原型でも、2000万円は下らないはずだ。
こんなもの…勝手に使っていいといわれたら余計、久しぶりに左ハンドルを運転するのに萎縮してしまうじゃないか。
事故った時の賠償金額の問題ではない。
車体は女体と形容した人がいたけれど、特に車好きでもない僕でさえ、この滑らかな車体に、傷なんてつけたくない。
急いで行きたいのに、荒い動きで傷つけたくない。
そう言ったら、きっとあの男はこう笑うだろう。
――欲望の赴くまま、相手を壊しても烈しくイこうよ?
ああ――
そんなことを思ってしまう僕は、相当あの青い男に毒されている。
キ-を差込めばドアはあく。
間違いなく…氷皇の車だ。
運転して地上に上がった途端、突如制服姿の女の子が現れ、驚いた僕は慌ててブレーキを踏んだ。
慎重にと思った途端、これだ。
ぶつかってはいないけれど、車から降りてしゃがみ込んだ少女に駆け寄った。