シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「怪我はない!?」
制服は…品川桜華学園のもの。
黒縁眼鏡に長いおさげ。
眼鏡を上半分覆い尽くすような、一直線に切り揃えられた長い前髪。
前髪で表情は判らないけれど、顔の角度からして僕を見ているのだろう。
やがて、頬に涙が伝い落ちて…僕は怪我をさせてしまったのだと焦った。
しかし。
「王子様…」
漏れ聞こえたのは、予想外の言葉で。
「ようやく私に会いに来てくれたのね、私だけの王子様」
「お、王子…えええ!?」
過去――
幾度か女の子からのナンパはあったけれど、こうして確信持った眼差しで、初対面の子に"王子様"と呼ばれたことはない。
「王子様、会いたかった!!!」
さらりと、少女の長い前髪が真ん中から左右2つに割れて、その顔が露わになった。
僕を見る眼差しは――
恋愛的というより、狂信的で。
男として嬉しいとか嬉しくないとか、そうした感情を遙かに超えて、少女の目は明らかに異質で病的なものだったから。
酷い顔色と酷い目の周りのクマ。
異様な熱を僕は感じて、本能的に関わり合うなと警鐘が鳴った。
由香ちゃんが言っていた、"変な女の子"ってもしや…?
だとしたら、構っている時間はない。
「あ、あのね…?」
「私を助けて!!! 救い出して!!」
少女は突如声音を悲痛なものに変えて、
「私はこれ以上――
人を殺したくないッッ!!!」
そして少女は――
ふっと意識を手放してしまった。