シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
毎回付き合わされて見ているボンドのDVD。
美女のボンドガールは、まるで興味がないらしい。
硬派ぶるけど、食指さえ動けば、据え膳喰わぬは何とやら。
どこかボンドと似ている、我が家のお盛りワンコ。
そのワンコが尻尾をぱたぱた動かして、憧れの車を見つめている。
思えば――
あのボンドカーが目の前にあるとは凄いこと。
「これ本物なんだ!!?」
「このエンブレム、間違いないって。なあ、芹霞。映画では此処から機関銃とか小型ミサイルが出てきたよな? ここはせり出し式の装甲板とか、煙幕発射とか潜水艦になったりして…」
得意気に煌が説明してくれると、あたしも煌のワクワク感が移ったようで、007話に花が咲いて。
「お話中悪いんだけれど。あれは架空の話だから。ただ車種がアストンなだけで特別仕様ではないから。これは至って普通の車。まあ…青くて5人乗りの時点で、普通じゃないけどね」
玲くんの容赦ない言葉に、煌がムンクの叫び状態になった。
夢が打ち砕かれたらしい。
そうして意気消沈した、身体の大きい煌は助手席に回り込み。
あたしと櫂と桜ちゃんが後部座席に乗り込もうとドアを開けた時。
「!!?」
見知らぬ女の子が寝転んでいて。
思わず、ドアを閉めて櫂と顔を見合わせてしまった。
玲くんは――
「誘拐?
それとも――お持ち帰り?」
「どちらも却下!!!」
聞こえていたらしい。