シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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東京池袋に位置する、『医療法人紫生会 東池袋総合病院』。
2ヶ月間お世話になった病院隣の一般駐車場に、一般らしからぬ高級車を止めた玲くんは、
「じゃあ直ぐ戻ってるから、車内で待っててね」
運転席から降りて外から反対側に回り、少女が座ってる後部座席のドアを慎重に開けた。
撓(しな)垂れる少女を抱えようとした玲くんに、前の助手席に座る煌が降り立ち、軽々とその肩に担ぎ上げた。
「玲が"王子様"のように女抱きかかえて現れたら、病院がパニックになって身動き取れなくなってしまうだろうよ。ほら、さっさと預けてこようぜ?」
「……。速攻、帰ってくるからね?」
念を押すように、あたしの顔を覗き込んだ玲くん。
「心配性だなあ。大丈夫だよ、玲くん。櫂と2人で居るんだし。安心してゆっくりしてきていいからね?」
「…ゆっくりなんて出来るかよ」
「え?」
玲くんの声が小さすぎてよく聞こえなくて。
聞き返すと、玲くんはにっこりと笑った。
「ラジオつけておくね。この歌い手はラブソングオンリーだし、こっちの局は"バラードセレクション"? 危険過ぎて絶対ありえないな。他に…。ん…これは。……。これならいいかな?」
玲くんが流したラジオは、
『新曲を記念して、Zodiacのメドレーをお送りします』
今、決して心に染みいることのない、耳慣れた曲が流れている。
「玲…」
櫂が…顔を嫌悪に歪ませて、憎々しげに玲くんの名を呼べば、
「ふふふ。直ぐに帰ってくるって。大人しく待っててね? ムードを助長させるZodiacの曲ばかり聴きながらね」
玲くんは実に爽やかに、煌と車を後にした。