シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
その悲痛な翳りを吹き飛ばすように…あたしはあえて明るく言った。
「ありえないって。玲くんだって選ぶ権利あるから。玲くんは優しいから、あたしの"初"を傷つかないよう、恋人ごっこをしていてくれただけ。
正直。"約束の地(カナン)"では、その"愛情"が本物かもと思った時もあったけれど、玲くん未だ本当の"玲くん"見せてくれないし、いつも余裕で笑ってばかりだし。どうみても、恋愛初心者のあたしをただからかって遊んでいるだけだって、櫂だって判るでしょう?」
「……」
「玲くん、距離を詰めてくれないのが凄く寂しいんだ。嫌われてはないんだろうけど、隔りを感じるんだよね。遠慮とも警戒ともまた違う…何かは判らないけど。だから余計、玲くんのからかいが、一過性で終えるお遊びに思えるんだ。何が本音で何が冗談なのか、あたしのレベルではまだ判別出来ない。
いいよね、櫂は。昔から玲くんと両想いで。阿吽の息で通じ合えて、羨ましい限りだよ」
「……」
「ああ、どうすればもっと玲くんと親密になれるんだろう。玲くんが"おでかけ"実行してくれないなら、やっぱあたしが踏み込むしかないよね」
「……芹霞」
それは――
「浚(さら)われるなよ…」
切実な…痛いくらいの漆黒の瞳で。
「え?」
「玲の元にも――
煌の元にも――
何処にも…行かないでくれ」
それはまるで懇願のようで。
不遜な『気高き獅子』とは思えぬ気弱な光。
ああ、櫂はかなり自信が揺らいで不安になっているのか。
だからあたしは――
櫂のさらさらとした漆黒の髪を手櫛で梳く。
昔から。
櫂は髪を撫でると、すぐに泣き止んで穏やかな顔になったから。
だけど今の櫂は――
逆に泣きそうな顔になった。