シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「……ゃんが持ち出した物で動けないらしいだ。家に向かう」
ひとしきり、思いに耽っていたらしい。
こんな時、状況判断も出来ずに"私情"に憂うなんて、"次期当主"としても失格じゃないか。玲の方が、見事に気持ちを切り替えて対応できているというのに。
酷く…自分が矮小過ぎて滑稽に思えてきて。
嗤いが込み上げてきた。
「火って…階下の住人からの失火? それとも不審火?」
煌が前のめりになりながら、玲に聞く。
「不審火の可能性が高いらしい。不思議なことに…最上階から燃えているらしいけど、家には最先端の防火設備が整っているし、仮に失火しても…24時間セキュリティー会社が監視しているから、大火にまで至ることはない」
「…故意的、か?」
俺は目細める。
「多分ね。付け加えるならば、マンションの住人でもない限り、セキュリティロックかかっているあの正面玄関潜り抜けて、最上階に行き着くことは出来ない。まず一般人が、マンションに入らずして最上階に火をつけるなんて不可能だ」
「何かの…力、か?」
煌が強張った声を出しながら、緋狭さんの腕環を指先で撫でた。
「否定は出来ないね。狙われたのが最上階という部分だけをとってみても、異能力集団に対する挑発…或いは殺意と考えるほうが自然だよね」
「でもよ、力なら…家には結界張ってるから、ここまで大事にならないんじゃね?」
「…うん。そこがひっかかるけど」
玲はバックミラー越しで、俺と視線を合わせた。
「櫂、十分気をつけろよ」
玲は――
俺が狙われたと思っているのか。