シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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マンションが近づくにつれ、サイレンの音と人間のざわめきが広がる。
明らかに、野次馬に混ざって、報道関係者の顔ぶれが増えている。
紫堂財閥の次期当主の住まいだということくらい、とうに掴んでいるだろう。
仕事柄、マスコミ連中との顔合わせも多い俺としては、のこのこ現場に踊り出て、しつこくマイク向けられて感想求められても煩いだけで。
だから近く細い路地裏に車を止めさせ、皆で降り立って、見慣れた高層ビルの燃焼具合をまず観察した。
その炎の揺らめき方は派手なもので、ヘリからの放水も…はしご車からの放水も効果はないようだ。
さらに奇妙なのは、明らかに最上階だけが燃えているということで。
これだけの炎の勢いをもってしても、他の階に影響がないともなれば、その炎に悪意を感じるのは自然の道理だろう。
俺らの横を、銀色の防火服を着た消防隊の1人が、携帯で話をしながら走り去った。
「だから!!! 何をしても消えないんだ、あの火は!! 50人体制でも無理なんだ。ああ!? 何で冗談言わないといけないんだよ!!! もっともっと至急人数寄越してくれ!!! 風など吹いたら、飛び火して大惨事になる!!! 住民は避難させているから大丈夫」
"消火"の専門家が多く揃っても、梃子摺(てこず)る奇妙な火。
「明らかに――
意思を持った力だね、これは。
瘴気…というわけではないけど、何らかの力の気配を感じる」
玲が鳶色の目を細め、そのまま煌を見た。
「火か…。
煌、出来る?」
煌は待ってましたと言わんばかりに、得意げに何度も頷いて。
そして目を瞑ると、緋狭さんから渡された腕環を触りながら、自らの"気"を高める。
途端。
天高く燃え盛っていた炎が、一瞬にして消えた。
現在、緋狭さんの元にて力の制御方法を学んでいるらしいが、それにしてもこんな短期間で、これだけの炎を瞬時に消すとは、大した進歩だ。
「……感想は?
火つける専門の俺が消したんだよ。
なあ…どうよ?
なあ、なあ!!」
――ということを、褒めて貰いたいらしい。