シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「消えない大火が消えたり現れたり。
おまけに台風まで…って現場はパニックだったぞ!!?
自然現象を無視して好き放題出来る怖いモノ知らずは、もしやと思って来たけれど…やっぱり期待を裏切らず紫堂だったな!!!」
遠坂が背中に背負っているのは、唐草模様の緑色の風呂敷で包まれた大きな荷物で。
「由香ちゃん、無事だったんだね!!?」
芹霞は遠坂の首筋に勢いよく抱きついて、とても喜んだ。
「か、神崎~、に、荷物をひとまずおかしてくれ~。重いんだよ、これ。ああ、ありがと。ふう、よっこいしょ」
ズッシーン。
地殻を破壊するような、派手な重低音。
それをさして気にするわけでもなく、道端にしゃがみ込んだ遠坂が、風呂敷を広げて中から出したものは――
「何たって隠し財産たる機密費やら貸し金庫の鍵やら入ったこの金庫!!! 重すぎるんだって!!!」
「由香ちゃん…それごと、持ってきたの?」
コメカミから汗を垂らし…半ば呆然としながら言ったのは玲で。
「へ?」
心外というように、遠坂は口を開けたまま、玲を見上げている。
「世界最高レベルの耐衝撃金庫で、核が落ちても壊れない程の耐久性があるんだ。それから。持ち逃げされないように1t以上…するんだよ?」
端麗な顔を引き攣らせながら、金庫を指さしてそう言えば。
僅かな沈黙を、遠坂の悲鳴が切り裂いて。
「な、何ですと~!!? 師匠、これは活動の動線となる大切なものだから、何かあったら何が何でも持って逃げろって、いつも言ってたじゃないか!!!」
「い、いや…まさか由香ちゃんがそれを持てるとは思わなかったから、冗談のつもりで…」
「師匠~ッッ!!! いたいけな弟子に何という悪い冗談を!!! ボクは、そんな重要物まで教えて貰ったのだからと、その信頼に報いる為に必死に頑張ったんだぞ!!? 腰が"ぎっく"になりそうだったんだそ、"ぎっく"に!!!」
それでも。1t背負い続けていても、ぎっくり腰にはなっておらず、大声を上げられる元気があって。
拗ねて動かなくなる煌を引き摺る時でさえ、ふうふう言っていたのに。
1tとは、遠坂でも持ち逃げできるくらいの軽いものだったのか?
防犯の意味はなかったのか?
それとも、遠坂の…
「火事場の何とやら…かしら?」
「ああ、多分そうだろうな。俺でも、櫂や玲や桜でも、背中に背負っては運べねえだろ。つーかさ、その風呂敷…なんでそんなに丈夫なのよ?」
座り込んだ煌が、首を傾げながら風呂敷を触っている。