シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

住んでいた…というよりは、入り浸っていたというべきか。


1秒でも長く芹霞と共に居たくて、例え隣家であっても、家に帰りたくなかっただけ。


成長した今となっては、事情が少し変わっていて。


死んだ母親の実家は空き家となり、俺は芹霞の家以外に居て。


俺は、8年前のあの悪夢以来…神崎家で寝泊まりしたことはなく。


少しでも長く一緒に居たい気持ちは、今も昔もまるで変わりはないけれど…今であったら…昔のような状況になったら、かなりキツい。


――櫂、あったかーい。ぎゅうして寝よう?


――はい、悪い夢を見ないためのおまじない。ほっぺにちゅうしてあげる。うふふふ。おてて繋いで寝ようね。


絶対、芹霞は喜んで再現しそうだから。


昔の俺の方が…忍耐強かったというべきなのか?


今だったら――

昔のように安眠など出来ない。


手を出さない自信は、まるでない。


ただ黙って芹霞の"愛情"に耐えろというのなら、それは拷問以外の何物でもない。


「だけど全員寝泊りするまで、広くないよね、ウチ。まあ全部屋解放して、雑魚寝状態で我慢してもらえばいいけど。まず緋狭姉の部屋は空いてるし、あたしの部屋も勝手に使ってくれていいし。それから…」


「芹霞…俺を見るなよ? 何も言うなよ? 俺の部屋は俺だけのものだ!!! それだけは譲らねえッッ!!!」


涙目で、部屋の権利だけでも死守しようとしている。


だから俺は。


芹霞と目を合わせて、苦笑しながら軽く頷きあった。


言わないでおこう。


あの部屋――

昔俺が使わせて貰っていたとは。

< 143 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop