シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
心根が純粋な紫茉ちゃんは冗談が通用しない…少し天然なのだ。
榊さんもどんな反応をとっていいか判らず、戸惑っている。
「しかし何でまた、109へ? 芹霞さん…そういう感じに見えませんが?」
榊さんがあたしの頭のてっぺんから足の先まで、不躾にじろじろと眺めた。
「そりゃああたしは化粧すらしてない平凡な女子高生ですけどね、今流行のものはチェックしているんですよ?」
そしてあたしはえへんと咳払いをして携帯を…正確には携帯につけているストラップを見せた。
「可愛いでしょう、これ109にしか売ってないの!!!」
「なんですか、それ…生き物ですか?」
「ええ!!? この可愛さが判らない? "ぶちゃいくワンコ"の"ティアラ姫"」
「姫…このパグの顔を思い切り踏み潰したような犬が…。確かに頭に…なんか違和感ある小道具が突き刺さっているようですが」
小道具…それは星冠(ティアラ)。姫の証拠のものだ。
「凄く可愛いだろう、ストーカーさん。東京にはこんな可愛いお店があるんだなあ。芹霞がこのストラップを売っている専門店を案内してくれるって言うんだ。あたしはもう…昨日から楽しみで楽しみで興奮してあまりよく眠れてないんだ」
「もう何か本当、紫茉ちゃんとは趣味合いそう!!!」
「ああ!!! あたしもそう思う!!!」
盛り上がるあたし達の横で、榊さんは苦笑いしていて。
「今時の女子高生の感性は理解に苦しみますが…これが可愛いものというのなら、由香にもお土産をたっぷり買って帰りましょうか」
そう、顔を綻ばせていたのに、あたしは気付かなかった。
聞こえていたならば、例えストーカーいえども、忠告くらいしてあげたろう。
このティアラ姫…少なくともあたしの周辺において、可愛いと騒いでいるのはあたしだけであって…特に由香ちゃんには理解されないことを。
――なんか、無性に腹が立ってくるワンコだね。
顔面にぼすぼす拳を入れ続けられた…部屋にある大きめの人形。
由香ちゃんとティアラ姫は非常に相性が悪いのだ。
そのことは多分…榊さんは知らない。