シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 

「あの少年…制裁者(アリス)の名残だな」


いつの間にやら同じ方角を見ていた櫂は、かつて煌が在籍していたその忌まわしい組織の名前を呟いて、顔を曇らせた。


「8年前に解散し、2ヶ月前に首謀者たる藤姫が死亡した後も、制裁者(アリス)は彼らを弄繰り回した紫堂を狙うか。

だがマンションの火事は、制裁者(アリス)ではないな。制裁者(アリス)には、紫堂のような力を持たないから。緋狭さんの助力があるとはいえ、力を扱えるのは…かつてNo2であった煌ぐらいなものさ」


「今…制裁者(アリス)の生き残りは、どれ程いるんだろうね」


「片手ぐらいじゃないか? 突如解散して…彼らが日の道を歩いているという保証は何もない。そう思えば…煌は緋狭さんと出会えて、本当によかったと思う。そうでなければ今頃…煌の心に光はない」


8年前。

そこに至る記憶を消されて、代わりに"如月煌"として生まれ変わった煌。


それでも断片的な記憶は残された。


BR002。


それがかつての自分の名前だと、煌は認識している。

人を殺すのが生業だったのだと、それも認識している。


完全に記憶から欠如しているのは、恐らく8年前の"あの瞬間"のみ。


もしもその記憶が戻ってしまえば――

煌から笑みは消えるだろう。


それを櫂は恐れている。


そしてその"事実"は、恐らく芹霞も感付いているだろう。


あの場に居たのは、櫂と芹霞と緋狭さんのみ。


判っていても――

それでも芹霞は煌に対して揺らぐことがなかった。


それが僕には羨ましくて仕方が無い。


僕だったら、芹霞はどう反応していただろう。


昔を赦して、今の僕を選んでくれるのだろうか。


僕と芹霞との絆の強さは、どれくらいなんだろう。


弱くはないと僕が信じたいからこそ、"僕"を見せると決めたんだ。


そこからじゃないと、僕は先に進めない。


僕の全てを、愛して貰うために。

僕の全てで、芹霞を愛する為に。


"永遠"が僕に向けられていないのなら、その直前までの絆でいいから、僕は芹霞と共にいたいんだ。




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