シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「嫌だといえば、お仕舞いにしてくれるの?」


意地悪く聞いてみれば、どもった声が響いてくる。


「冗談だよ。お堅い君が連絡するくらいだからね、でも僕その人知らないんだけれどな」


『先刻私を訪ねに来たんですけどね、先生に助けられた、"王子様"なんだって言ってましたが』



"王子様"


ああ――

あの少女か。


正直、もう関わりあいたくない。


――私を助けて!!! 救い出して!


何だか…嫌な感じがするから。


助けを求める少女を突っぱねたくはないけれど、そうした同情以上の…得体の知れぬ予感が胸を占めたんだ。


関わりあってはいけない、と。



『それでですね、彼女が…生徒手帳を持ってましてね。私が偶然見てしまったんですけど』


生徒手帳?


『以前先生が診られた"神崎芹霞"さんの、ものだったんですよ。先生の自宅付近で拾ったはいいけれど、どうしようか悩んでいたようです』


僕は芹霞に聞いてみた。


「え? あ…そういえば、胸ポケットに入ってない!!?」


車を降りた時に落としてしまったのか。


仕方がない、受け取るしかないか。


「今日はもう遅いから、明日でもいいかな。

…会うからさ、出来れば僕の携番教えるのは控えてくれる?」


それが防御線になるかは判らないけれど。


極力、僕個人のものは流出したくない。


ましてや、警戒したい相手に。


『先生がお会いしてくれるのなら、もういつでも。私が直接伝えますんで、携帯番号は隠匿します。ええ、会って頂けるなら十分なんで』


朗らかな声が聞こえてくる。


結構…困っていたらしい。


「じゃあ明日10時頃、場所は……そうだね、中野駅前にいるから」


地形的に判りやすいから。


電話を切った僕に、芹霞が聞いてきた。



「明日10時に何?」


「ああ、上岐妙…さっき病院に送った子と会うんだ」


「カミキ…タエ?」


途端芹霞が腕組みをして、渋い顔をした。


「何か…聞いたことある名前だなあ。でも何で病院から?」


「ん…。芹霞の生徒手帳拾ってくれたんだって。その連絡。受け取ってくるね、さっさと」


どうでもいい詳細は極力ぼかして。


"さっさと"を強調して、僕はにっこりと笑った。


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