シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「かなり…ご立腹でいらっしゃる?」
思わず身体を離して正座し、恐る恐る櫂の顔を窺えば、櫂はそれはもう…不機嫌そうな顔をしながら上体を起こして片膝を立て、乱れた黒髪を手で掻き揚げる。
「いいわけないだろう!!」
櫂様は、不機嫌であられる。
「こっちは我慢に我慢を重ねて、過去の幻影が色濃く残るこの家で、変な気起こさない様、必死に拷問に耐えていたのに…人のことを変態扱い。本当に俺の気持ち、判ってるのかよ。それともわざと、判ってて試しているのかよ」
あまりに口早にぶつぶつ長ったらしく呟くから、あたしの理解には至らなくて。
「もっとゆっくり簡潔に」
思わずそう言えば、氷のような冷たい目を寄越した。
「ひえええ!!?
ま、まあいいじゃない。お、幼馴染のよしみで。ほ、ほら…昔なんてよく一緒に…」
慌てて話題を変えようと、ほのぼの話を仕向けたはずなのに、
「……へえ、いいんだ?」
途端、漆黒の瞳が妖しく揺らぐ。
やばい…スイッチを入れてしまった気がする。
「じゃあ俺も、遠慮なく触らせてもらおうか? 昔みたいに」
美しすぎる顔に、残忍めいた笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。
「さ、さわ??」
子供のじゃれあいが始まるとは到底思えない、それは妖艶な面持ちで。
乱れた櫂の服から覘く鎖骨が嫌に色気を放って。
「"肌を触ると気持ちいい"、"もっとぎゅうしよう"、"はい、ちゅう"。お前の定番台詞、そのまま俺が返してやるよ。さあ、どれからがお望みだ?」
やば。
やばやばやば!!
壁に追い詰められたあたし。
不敵に…艶然と笑う櫂。
その顔は、"天使"よりは"悪魔"で。
絶対可愛い戯れで終わらない気がする。
凄いことされそうだ。
それだけは本能的に判る。