シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「さあ、once more Please?
"あたしも、櫂がだあいすき"」
言えるわけない。
この状態で言えません。
あたしだって、それくらいの空気読めます。
「か、櫂。あんた紫堂財閥の次期当主なんだから!! 立場わきまえない不埒な真似などしたら、お父さん泣いちゃうよ?」
櫂の両腕があたしの顔を挟むように伸びて、ドンと背の壁についた。
そしてあたしの黒髪を一束、指でくるりと絡めとると、その毛先を口に含んだ。
「その親父は行方不明。だったら何処で何しようが俺の勝手だ」
挑むような強い光を宿す切れ長の目。
艶かしいその所作に加えて、意味ありげに含んで笑う不遜な魔王は、玲くんにも負けない壮絶な色気を放って。
もうあたしはくらくらくらくら、ぶっ倒れそうだ。
「さあ、芹霞。
お目覚めのお時間だ。
まず何から、どうして欲しい?」
「お願い、もう許してください。
寝ぼけたあたしが悪かった。
もう櫂に一切触れないから、許して~!!!」
そう懇願したというのに。
あたしの言葉の何かが、更に櫂の機嫌を損ねたようで。
突如櫂の端正な顔が苛立ったように歪んだと思うと。
「!!!?」
がぶりと、荒く耳朶を齧られた。
それもかなり強く。
「な、なななななな!!!」
食われるかと思った。
それ程、容赦なかった。
「そういうこと平気で言うのなら、俺もここまで我慢しないで…心ゆくまで攻めるぞ?」
余裕染みた不敵な様など何もない、ただ真剣な面差し。
怒気を含んで、睨み付けられた。
「せ、攻める?」
思わず聞き返してしまったあたしに、櫂はにやりと笑った。
「判らない? じゃあ…体感させるしかないか」
漆黒の瞳が甘い光を放ち、艶めいて。
完全に欲に満ちた"男"の顔になって。
「判った判った、意味判りました~!!!
どうしてあんたまで、
煌みたいに盛るのよおお~!!!」
「俺が何だって?」
ぶすり。
不機嫌そうなワンコの声がした。