シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
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中野駅に向かう外界は、昨日より温度が下がってとても寒かった。


嫌でも冬季に入ったことを、肌で感じてしまう。


更に、今にも雨でも降りそうな、鉛のような沈んだ色合いの空が延々と続き、気分を鬱々とさせる。


こんな天気の時は、家でぬくぬくとしているに限る。


誰もがそう思っているのか、日曜日の大通りで見掛ける人の姿はかなり少ない。


"お客さん"


煌に対して、まだ治まらぬ沸々とした怒り。


あれから、櫂を押し止め、放浪生活をやめせようとしたが、神崎家から出るという櫂の意思は固く。


待ち合わせ時間も迫ってきたから、後でまた説得しようとして玲くんと外出したあたし。


橙色のワンコは、必死に謝って声をかけてきたけれど、完全無視。


奴に対する消えぬ怒りの炎を揺らめかせながら、黙々と道を歩いていた時、


「ねえ…。機嫌直してよ、芹霞」


隣に歩く玲くんに優しく宥(なだ)められた。


「僕と一緒に居るんだから、僕のことだけ考えて? 他のことは考えないで?」


ふわり。


何だか"お試し"の時みたいで、どきりとしてしまう。


どうして玲くんは、そういう台詞を、臆面もなく綺麗な笑顔でさらっと言えちゃうんだろう。


経験値の違いなんだろうか。


きっと挨拶のような、気軽な感覚なんだろうと苦笑していたら、


「違うよ?」


玲くんは白い息を長く吐きながら、少しだけ悲しげに笑った。


「僕は、誰にでも言わないよ? そこまで僕は軽い男じゃない」


玲くんの気分を損ねさせてしまったのだろうか。


「あたし、別に玲くんを軽い男だなんて思ってないからね?」


誤解しないで欲しい。


そう、玲くんの腕を両手で掴んで、訴えた。


「……。じゃあ何で、僕の言葉を冗談に思ってしまうの?」


「え?」


「結構…僕なりに、いつも頑張ってるんだけれどね」


白い吐息と共に、儚く消えてしまいそうな玲くんの微笑。


「なかったことにされるのが、凄く辛い」


そしてその微笑みを消して、真摯な面持ちをあたしに向けてきた。

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