シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
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「しつこい奴らだね。殺気はないみたいだけど」


ビルとビルの間の小道に身を隠し、ばたばたと動き回る黒服の男達を見ながら、玲くんは鋭い声を放った。


「何処の誰の差し金か、捻り上げた方がいいかな。こっちにでも誘い込むか」


「れ、玲くん…手、手離した方が、動きやすいかと…」


体力の違いなのか、身体能力自体の違いなのか。


決定的に違う足の長さと、走る速度の差。


ぜえぜえ肩で息するあたしとは対照的に、玲くんは息一つ乱さず、


「駄目。離さない」


「で、でも…」


「離さない」


玲くんは、ポケットの中の手をぎゅっと強く握り締めてきた。


「お、お守りしていただけるのはありがたいですが、あたしは完全足手纏いに…」


「……。じゃあ、お姫様抱っこにする?」


ど、どうして"えげつない"笑顔になるのでしょうか。


「こ、こんな往来で、お姫様抱っこは…。判った、このままでいい」


「ん」


にっこり。


玲くんは殆どが"優しさ"で出来上がっているけれど、極一部は"意地悪"と"強引"で構成されている。



嫌だとは思わないけれど、最近極一部の彼が、結構大きく顔を出していて。


何だか、本当櫂と血が繋がっているんだなって思う。


櫂が玲くんに似ているのか、玲くんが櫂に似ているのかは判らないけれど、元より紫堂という家柄は、皆そうなのかもしれない。


あたしは紫堂の血に連なる者は、櫂と玲くんしか知らないし、12年間の付き合いあっても櫂のお父さんにすら会ったことはないけれど、紫堂の皆が皆"意地悪"と"強引"であるならば、人の上に立つ器を持つものは、そういうものが必需ということなんだろうか。


庶民には縁遠いものだということか。


紫堂という家は、本当に不思議だ。



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