シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「紫茉ちゃん、何をしたの?」
「いや…まあ…知り合いの名前を告げただけだ。虚勢ばかりで本当に頼りない奴だけど、名前だけは役立つからな」
「皇城……?」
気付けば後ろに榊さんが立っていて。
険しい顔をして、紫茉ちゃんを見ていた。
「翠の知り合いか、ストーカーさん」
「いや……。ほら、さっさと用事を済ませましょう」
にっこり。
その笑いは何か引っかかるものであったけれど。
あたし達は目的地に向けて、再びエスカレーターを上る。
「自警団っていうのは、色んな処に出没しているのかな」
「とりあえず若者が集まる処には現れるらしい。ああいう風に対象を見つけては引き摺って何処かの"矯正施設"に連れる。そこから出てきた時には典型的"優等生"。厄介なのは、矯正させられた若者達を、周囲の人間が喜んでいることだ。その為に自警団の暴力行為が暗黙の了解となってしまっている。
芹霞が、そういうのに見て見ぬふりが出来ない人間でよかったよ。芹霞が行かねば、あたしが動いていたから」
ああ、やっぱり。
紫茉ちゃんとは気が合うらしい。
凄く嬉しくなった。
「あたしもこういう風に直接自警団と関わったのは初めてだ。あの携帯は何だろうな。ああ、芹霞。変なもの押された手は大丈夫か?」
「スタンプかね? 掠っただけで別に痛くも痒くもないし…見た目全然判らない」
手を電灯に向けて透かすように見ても、代わり映えなく。
「何もないといいが…。あたしの知り合いに、あのスタンプだけは気をつけろといわれているから…」
紫茉ちゃんの眉が八の字になった。
「大丈夫だよ、紫茉ちゃん!!! 心配しないで?
だけど物騒な世の中になったものだね」
そうぼやいたら、紫茉ちゃんが頷いて同調した。
「それでなくても東京には、最近おかしなことがことが起こっているらしいし。芹霞は"サンドリオン"知っているか? 幸福を呼ぶ"幻惑の蝶"」
「???」
「…桐夏にはまだ伝わってないのかな? "サンドリオン"と呼ばれる蝶が現れたら、夢の国に誘われ…願いが何でも叶い幸せになれるという」
初耳だ。