シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


"王子様"


――ん?


脳裏に再生されたその単語に、ふと…あることに思い至った。


確か上岐物産のご令嬢だったはずだし。


まさか、あの黒服男は…この少女の恋路を心配する家の手の者によって!!?


――お嬢様の"王子様"についている"悪い虫"があれば、排除しろと。


"悪い虫"


あたしか!!!


今更乍ら、黒服の男の言葉を理解したあたし。


ああ、だからそれが判った優しい玲くんは…あたしを"虫"扱いした男に対して制裁を……ん?


――僕を"悪い虫"って馬鹿にしてたの?


何で玲くん、自分のことを"悪い虫"だって言ってたんだろう。


これはどう考えても、あたしが玲くんに纏わり付く"悪い虫"に他ならない。


「良くなったのなら何より。じゃあ、芹霞の手帳を返して?」


玲くんは微笑んで、上向きにした手を差し出した。


いつもの彼らしくなく…笑っているけれども態度が素っ気ない。


いつもなら、もっと優しく…女の子を蕩けさせるのに。


必要以上に突き放している。


しかも…


少女の視線が。


「玲くん…手、手を離そう」


しかし玲くんは、完全無視。


どうして、玲くんはこんなに手を繋ぎたがるんだ!!!


寂しっ子モード?

甘えっ子モード?


どうしてそれが、突然発動?


しかも、半分意地になっているような気もする。
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