シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 

そんな時。


あたしは窓の外で、女神様の姿を見た気がした。


「紫茉ちゃんッッ!!!」


まだ彼女との待ち合わせの時間には早いのに、間違いなく紫茉ちゃんが…1つに束ねた長い黒髪を靡(なび)かせ、きょろきょろしながら歩いていて。


ああ、何て神々しい!!


きっと、あたしを救うために来てくれたんだ!!!


あたしは感激に胸を打ち震わせた。


「玲くん、紫茉ちゃんが来たから、迎えに行って来る!!!」


叫ぶと同時に、上着の右ポケットに入っている携帯から、紫茉ちゃんの着信。


着信音を"サザエさん"しているから判るんだ。


玲くんが、右手であたしのポケットから携帯を取り出してくれた。


「ありが…え!!?」


渡してくれるものとばかり思っていたのに、玲くんはその電話に出てしまった。


「僕は紫堂玲と言います。芹霞と一緒に駅に来ているんだけれど、ちょっと『フルール』という名の喫茶店に来てくれないかな。そう、煉瓦造りの…そうそう、僕が手を振っているの判る?」


玲くん…どうして、繋げている手を大きく振るんでしょうか。


「じゃ、待ってるね? 

はい、芹霞返すね。彼女、来てくれるって」


にっこり。


そしてカラランと、ドアが開く鐘の音がして。


「芹霞!!!」


ああ、紫茉ちゃん。


貴方の眩しい笑顔が、少々憎らしい。


儚い脱出の夢は、打ち砕かれたね…。


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