シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「ごめん紫茉ちゃん。わざわざ中野まで呼び出しちゃって。迷わないでこれた?」
「ああ、やっぱり反対方向に行きかけたよ。やっぱり東京はまだ慣れ…。……。……芹霞、修羅場なら…また後で出直して…」
笑顔を消した紫茉ちゃんが、実に気まずそうな顔をして、踵を返そうとしたから、
「違う、違うの、行かないで、あたしを見捨てないで、紫茉ちゃ~ん!!!」
「でも…」
「お願い、此処に居て、このままじゃあたし胃潰瘍になる。ねえ?」
自由な左手で、紫茉ちゃんの腕を必死に掴んだ。
「あ、ああ…判った。じゃあ、此処に座……って…いいのかな?」
それはあたしの真向かい。
隣には、俯いたままの見知らぬ少女。
その少女の前には…
「君が"シマちゃん"? 芹霞から噂はかねがね。僕は紫堂玲と言うんだ。よろしくね」
玲くん…紫茉ちゃんには愛想がいいね。
紫茉ちゃんがかなりの美人さんだから…とも思ったけれど、玲くんは女の子に対して偏見はない人だから。
純粋に、あたしの大切な友達として迎えてくれているんだろう。
「……玲? また随分と美形だな」
紫茉ちゃんは少し驚いた顔をしたけど、それだけで。
由香ちゃんや弥生を除いた、大抵の女の子のようにキャーキャー言わないのに、ますます好感を持った。
煌の時もそうだけれど、玲くんを真っ直ぐに見れる女子は数少ないから。
例え玲くんのことを初対面から呼び捨てにしても、きっと玲くんなら嫌がらずに判ってくれる――筈だ。