シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「あのね、上岐さん」
過去…あたしの知る限りにおいて、玲くんが、女の子を名字で呼んだことはない。
それ程までに、上岐妙という少女と距離をとりたいのか。
「それ…昨日も言ってたけれど、訴える場所が違うから。
それは僕じゃなく…警察だよ?」
玲くんは…あくまで突っぱねる気らしい。
フェミニスト玲くんに、ここまで拒ませるなんて、この少女はある意味凄い。
「無理です。私がいくら警察に言っても…父が、権力で握り潰してしまうから…事件はまだ続くから」
告白タイム…には違わないけれど、色が変わってきた。
「なあ、芹霞。あたし達、此処で聞いていていいんだろうか?」
「それ…あたしも思った」
あたし達は、テーブルの横でぼそぼそと小声で話し合う。
「だからと言って、何で僕?」
「玲さんは…私の運命の"王子様"だから」
「なあ、芹霞。本当に此処で聞いていていいんだろうか?」
「居たたまれないけど、まだ玲くん手に力込めているから、逃げれないのよ、あたし」
「ねえ、君は昨日も、第一声がそれだったよね。だけど僕は君のことなど知らないし、第一僕は"王子様"なんかじゃない」
「いいえ、貴方は私の"王子様"です!!! だって、占いに…昨日の日時に出会った男性は、運命の相手だって…イチルが…」
「…イチル?」
紫茉ちゃんが目を細めた。
「知ってるの、紫茉ちゃん」
「いや…ね。桜華で信奉者が凄いんだ。殺されたらしいんだけどね。占い師だったみたいだ。桜華の3年だったらしい…けど」
「所詮は占いだ。僕には僕の運命の相手がいる。僕には僕の"お姫様"がいる。それは…君じゃない」
「私の"王子様"は玲さんです!!!」
「ああ…本当に居づらいな。玲くん、何だってそんなに頑なに拒絶すんだか」
「ははは、流石は"彼女"。動じず余裕だな」
「"彼女"? 誰が?」
「誰って…え? 違うのか?」
「違うって何が?」
紫茉ちゃんは、何だか同情するような眼差しを、玲くんに向けただけだった。