シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
どうしてあのゆったり速度で、昇りのエスカレーターで下まで行き着けたのかは判らないけれど…凄い美形だから。きっと足まで長いのだろう。
白衣ということは医者だろうか。
ゆるやかなウェーブかかった煉瓦色の髪と、濃灰(ダークグレイ)色の瞳。
歳は…20代後半だろうか。
櫂達を間近で見ているあたしとしては、特別…その秀麗に整った美貌に圧倒されることはないけれど…周囲の反応を見れば"極上"の域なのだろう。
「言いましたよね、この時期1人でふらふら出歩くなと…」
そして。
紫茉ちゃんの持っていた鞄を奪い取ると、それで本当に容赦なく、思い切り彼女のお尻を叩いた。
「何処までお前は阿呆なんだ!」
突然――
その男が野獣のような…悪魔に変わる。
思わずあたしまで飛び上がる。
「わ、悪かったって!!それより朱貴(タマキ)…お前仕事は…」
「桜華の保健医如きが何で残業だ!!?俺が残業する程、低脳に見えるか、ああ!?」
「ひいいいっ!!?」
紫茉ちゃんの怖がりよう。
あたしは助けていいのか悪いのか判らなくて。
ただぽかんと口を開けている間に、彼は紫茉ちゃんを引き摺るようにして連れ去った。
「芹霞…また今度な。今度は遊んでくれな?」
もう涙目で。
帰り際、やはり唖然としている榊さんに、彼は凄い目で睨み付けていたけれど。
榊さんは保健医だというその男を、強張ったような顔で見ていた。
何だ、一体何だと言うんだ?
兎に角あたしは、紫茉ちゃんとのデートは延期になったらしい。
何とも、インパクトがありすぎる人達。
まるで――
嵐が過ぎ去った後のようだった。