シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
驚くのはそこだけじゃなくて、その7つの小々猿が、親…たる小猿の言うことを聞かずに、きゃっきゃと遊びまわっていたからで。
「"№3"、俺の名前をサインするな!!! 車にペンキで落書きしたの俺ってことになるじゃないか!!! というか、そのペンキ何処から持ってきたんだよ!!! ああ、"№6"花を毟って食うな!!! 、"№1""№4"、喧嘩すんな!!!」
7匹からは声はしねえが、その分小猿の声がキーキー煩い。
「害は…なさそうだね?」
テーブルの下で頭を抱えて丸まっていた遠坂が、四つん這いで出てきた。
「……ふう」
櫂が途轍もなく大きな溜息を零して、風の力を鎮めた。
足元には、匍匐(ほふく)前進してこちらに進んできた小々猿。
いつ紛れ込み、何でその格好なのかは知らねえけれど、俺達の視線に気づいて顔を上げて、突然上衣を脱ぎだして。
「変態ではなさそうだね。力瘤(こぶ)? 筋肉自慢している…んだな、きっと」
遠坂の説明にまた櫂が溜息をついて身を屈め、その片腕を掴んで持ち上げた。
櫂の顔を間近に見て、突然その小々猿は赤くなってもじもじし始めて。
「"№7"!!! せめて惚れるなら、女にしろ~ッッッ!!!」
小猿が叫んだ。
それは泣きそうな声で。
そんな時、櫂の携帯に電話がかかってきて。
「…芹霞か? ……ああ、俺達は大丈……来てるぞ、ついさっき。いやまあ…無事は無事だけれど…無事じゃないというか」
櫂は言葉を濁しながら、神崎家の荒れた様を眺めていた。
「…深呼吸だけはきちんとしてこい。ああ、待ってる」
そして電話を切って。
「芹霞、絶対…怒るよな」
俺がぼやければ。
「間違いなく。俺は…そっちの方が怖い」
珍しく、櫂が弱音を吐いた。
目の前では、7匹の小々猿が神崎家に入ってきて、やりたい放題。
"吸収"の心配など必要ない程、瞬時に室内は荒れ果て、俺は櫂と顔を見合わせて、更なる深い溜息をついた。
桜は、親玉を糸で縛り上げた後、遠坂と小々猿を追っかけ回していて。
まるで逃走した猿達の捕獲風景だった。