シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「皇城雄黄とは…皇城の"御前"の長男で、現当主になったばかりの? あの"力"においても人格においても誉れ高い? だとしたら…兄と呼ぶお前は、御前の息子なのか?」
清楚に短く切り揃えられた、藍鉄色の髪。
同色の凛とした強い光を宿す瞳。
確かに、その風貌には育ちの良さは感じられたけれど。
正直――
噂に聞く御前や雄黄程の、偉大さは見受けられず。
「悪いかよ!!! その誉れ高い兄上を、変貌させたのはお前だろうが!!!」
「俺? 俺は直接会ったことはない」
変貌?
俺は目を細めて翠を見つめた。
「ほらみろ、翠!!! 紫堂櫂を恨むのは筋違いだぞ!!?」
「嘘ついてるかもしれないじゃないか!!! そもそも紫堂なんて、あくどい手を使ってその地位を手に入れた成り上がり。紫堂を拡大したっていう紫堂櫂がいい奴なわけないだろ!!? きっと裏で拷問かけたり、恐喝したり、相手を壊滅させたり。紫堂の警護団だかいうものも・・・皇城の位階制度みたいの真似してるみたいだし、紫堂は悪の集団なんだぞ!!?」
悪の集団とは随分な言われ様だ。
だがこの身は、完全否定出来るだけの潔白さがないのも事実だから、玲や煌、桜と顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
"拷問"、"恐喝"、"壊滅"。
然るべき時の然るべき措置としての有効な手段。そればかりをしているわけではないけれど。
その主たる精鋭が、目の前にいるとは考えていないらしい。
芹霞からの反応はない。
紫堂の"裏の仕事"の詳細は語ったことがないけれど、薄々は感付いているのだろう。出来れば芹霞の前では、"綺麗"な俺達で居たかったのだけれど、ここ数ヶ月…紫堂が関係する事件に巻き込まれては、隠し続ける方が無理な話なのかも知れない。
だからといって、積極的に公開はしたくないのが真情。
俺は芹霞の黙止に甘えている。
「…今の紫堂では、皇城には到底敵わない。雲の上…とまでは言わないが、悪評高い俺とて、それなりの立場は弁(わきま)えてはいると思っているがな」
藍鉄色の瞳に宿る光が、鋭く強くなり…ぞくりとする程の圧を放つ。
見定めているのか、俺を。