シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
2ヶ月前の大事故とは…。
あの時の、俺の…。
3週間前ということは、丁度"約束の地(カナン)"に行っている間か、その直前か?
「それで、その豹変がどうして櫂に結びついたの?」
玲の問いに、翠は答えた。
「入院中に、紫堂を名乗る人間ばかりお見舞いに来たから。だからきっとあいつら、兄上に洗脳したんじゃないかと。後で聞けば、兄上が目覚めた辺りから、紫堂櫂が病院を毎日のように訪れてるって言うし、てっきり紫堂櫂が何かしでかしていたかと」
「俺が病院を毎日訪れる? 第一俺は、お前の兄の入院も、何処で入院しているかさえ、知ら…」
1つの可能性に、俺は目を細めて。
「……その病院は、池袋の…『医療法人紫生会 東池袋総合病院』か?」
「そうだけど?」
俺達は――
顔を見合わせた。
「ああ、確かに行ってたよ、その病院には。そこの芹霞が長期入院していたからな。最上階のVIP専用の病室に」
「え?」
「確かに…最上階は使わせて貰ったけれど、その1つ下の階には、重篤者専用のものがあったね。僕は芹霞以外、完全ノータッチだから気付かなかったけれど…そこにいたんだ、君のお兄さん。…と御前もかな?」
「父親はどうしたんだ? まだ植物状態か?」
煌の問いに、翠は静かに首を横に振って。
「……。死んだよ、1ヶ月前。兄上が目覚めたのとほぼ同時に。兄上より先に目覚めていて回復していたんだけれど容態が急変して、兄上と入れ替わるようにして死んだ」
御前が、死んだ?
そんな情報、初めて聞いて。
「オフレコにしてくれよ。その事実知っているのはごく僅かだ。お前達に話したのは、その…せめてもの…償いに。仕方ねえだろ…俺…駄目駄目男に思われたくねえし」
渋々といった顔で、補修した壁を促した。
彼なりに、気にはしていたのか。
口では大見得切って悪態をつくけれど、性根は然程悪くはないらしい。
「紫茉…助けてくれたし…」
ぶつぶつと小さな声だけど、彼は七瀬にかなり懐いているらしい。
そこに色恋の匂いはしないけれど、2人の仲はいいのだろう。
面倒見のいい姉と、やんちゃな弟といったところか。
「判ればいいんだ、判れば!!」
同じく面倒見がいい煌が、兄のように豪快に笑うと、
「!!! 助けたのはお前じゃないだろ、この馬鹿ワンコ!!!」
「だから俺はワンコじゃねえって、この小猿!!!」
…この2人は、やはり…犬猿の仲なのか。