シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「絶対言うなよ!!? ばらしたのばれたら…兄上が怒り狂うから。それくらい貴重な情報を教えたんだから、駄目駄目男に認定すんなよ!!?」


"駄目駄目男"


七瀬の言葉を余程気にしていたのか。


「公開しない理由は何? だって御前の跡継いでいるのは、誉れ高い"雄黄様"なんだよね? 問題ないんじゃないか?」


訝しげな玲の質問に、翠は溜息をついた。


「今の俺には兄上の考えていることは判らない。最初は、兄上も目覚めたばかりで事態がどう暗転するか判らないからと、側近達がひたすら隠してたみたいだけど、兄上が元気になって豹変してからは…兄上自らが隠せと命じていたみたいだ」


御前は、経済界、財界から裏世界に至るまで、様々な場所に顔が利く。


彼の意思1つで、日本の情勢が変わるとまで言われている、他に多大なる影響力を持つ人物だが、その激しい気性と残酷なまでの強欲さと野心により、評判は頗(すこぶ)る悪く。


あの元老院でさえ手を焼き、手綱を持つことはおろか関わり合い自体を放棄して、事実上野放しにしてきたくらいだ。


そんな御前の強引すぎる功労にて、古より中立の立場のままで栄え続けた家が、積極的に勢力を拡大する契機となりえた。


その原因たる御前が死んだとなれば…元老院は動くだろうし、その他諸々…形勢図が幾らかは動くのは確か。


しかし。


御前の後継は、更に彼以上の力を持つと噂された、人格者である雄黄。


ひた隠しにする程の、情勢の変化はないだろうし、逆に味方勢力が倍増して未来は安泰そうに思うけれど。


その雄黄が、何故事故直後に突如変貌した?


俺は――


――お前じゃなかったら、紫堂の誰だよ、兄上を変えたのは。


"俺以外の紫堂"を考えていた。


御前と雄黄が入院していた病院は紫堂直属。


そんなVIPが居て、何故俺に連絡がこない?

何故医師として病院に常駐していた玲の耳にも入らなかった?


それに違和感を覚えて。

< 237 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop