シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
玲を見れば、玲は心得たばかりに浅く頷き…既に用意していた携帯に耳をあてて、電話をかけ出した。
――紫堂を名乗る人間ばかりお見舞いに来たから。
VIPだから、院長らが紫堂を名乗って見舞ったのか?
しかし院長は、医界においては紫堂の傘下だが、ただそれだけのこと。
名乗れる程深く、紫堂に食い込んでいるわけではない。
紫堂を名乗る権限は、一切与えていない。
自らを紫堂の者と名乗れるのは、紫堂の中枢に近くなければ基本許されない。
更に血族でもなければ、警護団長の桜でさえ公言は慎んでいる程だ。
だとしたら――
名乗れるほどの人物が、御前と雄黄の見舞いに訪れていたということ。
そして多分それは――
「櫂、予想通り。
病院の重篤VIPには、紫堂当主が出入りしていた形跡がある。
ふふふ、事務局長までも箝口令が敷かれていたらしいよ?」
薄く笑いながら、玲が携帯を閉じて言った。
「…やはり、親父と皇城には接触があったのか」
何を企んだ、あの親父は。
自ら動くなど七面倒くさいこと、紫堂の…自分の利にならねば動かない。
俺ではなく、親父が動くことにどんな意義がある?
そして今、姿を眩ます理由は何だ?
答えが思い浮かばない。
俺は何1つ親父を理解することが出来ないから、予想すら出来なくて。
思わず――
嗤いが込み上げてくる。
判ることが出来なくても、まるで哀しくならない自分に対して。
「ねえ、…お腹に九曜紋が彫り込まれた蛇の石像に心当たりはない?」
不意に、玲が翠に訊いた。
「九曜紋って…皇城の家紋の?」
「そう。その家紋が彫られた蛇。何か思い当たることある?」
翠は腕組みをして、少し考える素振りを見せると、
「あのさ――…」
そう――
口を開きかけた時だった。
「答える義務はありませんよ、翠くん」
強い語気の、男の声がしたのは。